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もしも時代の寵児と言われた某社長が現役だったらの風景

朝刊
10 /26 2009
 ライフドール社が入居している六本木ヘルズに東都地検特捜部が乗り込んでから数日後。事件は突然の急展開で東都地検特捜部の謝罪で収束することになった。しかし、ライフドール株は時代の寵児と言われた入江社長の人気でバブル化をしていたために、事件収束後も株価は下がり続け、低い株価で低迷を続けていた。
 一時とは言え、留置所に入れられて勢いに水を差された形になった入江社長も目立った動きをやめて表に出ないようになった。露出が減った入江社長とは逆に、絶大であった入江社長の人気はそのまま不信感となり世論は早すぎる検察の謝罪を疑問視していた。中には本当に不正や違法な取引があったのではないかという声も平然と上がるようになる。その噂がまた株価を押し下げることになり、ライフドール株は人気株からその膨大な発行株式数によって、東証システムに負担をかけるだけの不人気株になってしまった。そして、自然と人はライフドールという会社と時代の寵児であった入江社長を忘れていった。
 そんなある日、入江社長が記者会見をするというニュースが入った。件の事件以来のマスコミの前への出現と言うこともあり、世論はにわかに賑わい始めていた。しかし、人によっては期待する人もいれば、入江はもう終わった人だと言う人もある。事実、ITバブル崩壊後のライフドール株不信で新興市場は壊滅状態であった。
 記者会見当日、記者会見場にはマスコミも集まり、時代の寵児と言われながらも、一夜にして検察によって信用を失った男の言葉を一字一句逃すまいと待ち構えている。
「入江なんてもう終わっただろ。今さら何するんだか」
「また何か大きいこと言って注目でも浴びてえんじゃねえか。お気楽なもんだぜ」
 記者達の妬みのような愚痴が聞こえてくる。しばらくして、記者会見場がざわつき始める。それと同時にライフドールの入江社長がトレードマークになっているTシャツ姿で記者会見場に姿を現した。姿が見えると一斉にカメラのフラッシュが入江社長の顔を叩きまくる。フラッシュの弾幕を浴びながらも平然とした顔で会見席の真ん中に座った。
「えー、本日はライフドールの記者会見と言うことでお集まりいただきありがとうございます。突然ですが我がライフドール社はIT企業でありますが、この度ライフドールは中国での超低価格電気自動車とアメリカでの高価格電気スポーツカーへの事業展開を始めます。これを期に電気自動車を我が社の中核事業に育てていきたいと思います」
 入江社長の口からまさかの自動車事業への進出が発表されて会見場はどよめいた。長いこと沈黙していたライフドールがIT事業ではなく、産業の目玉というべき自動車業界へ殴り込むというのだから、会場が驚くのは当然だった。
「入江社長。中国とアメリカでの展開との事ですが、日本での電気自動車事業は開始しないのでしょうか?」
 記者が勢いに任せて質問をぶつけた。
「えー、日本での電気自動車ですが、規制が厳しいままであるなら、技術力が大手メーカーに遙かに劣る我が社に参入の余地はないでしょう。しかし、規制緩和が起きる事がもしもあった場合なら、日本市場も視野に入れています。そして、それに向けて我が社はラジコンカーの大手である波矢模型を買収しました。波矢模型のラジコンカーで培った技術を電気自動車に応用しようと資本を投入します。なお波矢模型と我がライフドール社で合弁会社の波矢電気自動車会社設立も予定しています」
 さらに会場中が驚きの声が上がった。日本への参入は未定であるものの、参入に向けて企業買収をしていて、しかもその企業が模型会社であるというのだ。
「しかし、波矢模型はラジコンカーでは定評がありますが、電気自動車に関してはどうでしょうか?」
「ええっと。記者さんに逆に聞きたいのですが、電気自動車とラジコンカーのどこが違うのですか?俺には大きさが違うくらいでまったく同じ物という認識です。そういった意味では電気自動車に力を入れたという企業でもせいぜい10年には届かないでしょう。でもこの波矢模型の20年以上も電気自動車のミニサイズの開発を続けていたわけです。どちらの企業の技術が信頼できるか考えるまでもないでしょう」
 この驚きの発表を受けて、会場のどよめきは止まらない。筋は通ってるようでいて、どこか子供の屁理屈にも似た理屈を聞かされた記者達はまるで狐に化かされたような気持ちのままでいる。そして、これこそがライフドールを、いや入江社長を時代の寵児と言わせた要因である。
 入江社長はそんな記者会見場を見ながら、発表するまではどこか不安だったこの事業も実現できる自信を持った。
 これでもうやるしかないわけだから。そして、俺はいつもそれを行ってきたし、そのノウハウはある。しかし、検察に捕まったままで社長を辞めて悠々自適に下世話な事をやってる生活にも少しどこか憧れてる自分がいることも入江は感じていた。ただまだ運良く社長でいられるわけだから、思いつく事業がある限りそれに集中してやっていきたいと入江は思っていた。
 架空の企業であるライフドールの挑戦は新しいエコ時代でも始まったわけだ。


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黒崎銀二

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2007年8月31日開設
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