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究極の飲み物の風景

朝刊
08 /22 2011
信子「最近超クソ暑かったけど、突然ここまで冷えるとそれはそれで驚くわね」
歩「そうですね。なんか寒いくらいですよ」
信子「まあ寒さと涼しさの間って感じかなぁ。でも涼しいお陰でジョギングで走れる距離がぐーんと伸びたのよ」
歩「ジョギングしてるんですか?すごいですね。私なんか運動なんてずっとしてないです」
信子「体動かすって良い事よ。ってあたしも相場の無い土日に時間の空いてる時だけどね。でもね、久しぶりに走った時なんて膝は痛いし、全然走れないし、これがあたし?って驚いたもんよ。老いとは体力低下の事よ、きっと」
歩「うわ、私なんか学生時代ですら全然走れなかったですから、もっとヒドそう」
信子「それでね。ここ最近の猛暑の中を走ってるとすぐに汗が噴き出してきて、体が熱くって長い距離走れなかったのよ。それにすぐに喉渇いてねー」
歩「熱中症になっちゃいますよ」
信子「そう。熱中症になりかけるわけよ。そこで持ってきた小銭で自販機でスポーツドリンクを一気に飲むわけ。これがもう人生で一番おいしい飲み物はこれだなって思えるくらいおいしいのよ。体に染み渡る感じが良くわかるし、あたし生き返ったー!って感じで」
歩「確かに暑い時の飲み物っておいしいですよね。そこまで染み渡るって感じではないですけど」
信子「歩ちゃんもあれは体験した方がいいって。人生において究極の食ってのはあの瞬間に存在するのよ。生と死の間を生の方に一気に戻される時にこそ、人は生きてるって実感と幸福感を味わえるのよ。熱中症限界まで引っ張ってから飲むスポーツドリンクなんて百五十円だけど、絶対に数百万円する飲み物よりもおいしいって断言出来るわ。過酷な限界状況で体が求める食こそ究極の料理なのよ。だから、何もお金があるからって究極を味わえるものじゃなくて、汗だくになって走った時の百五十円の飲み物の方がおいしいわけよ。あ、ちなみに熱中症限界の時は水を飲んでもあまり染みこむって感じじゃないのよね。電解質が足りないことがわかるっていうか、飲んだ水がそのまま汗になって出ていくって言うか」
歩「へえ。究極の飲み物ですか。しかもスポーツドリンク。そんな発想したこと無かったですね」
信子「走ってるとごく当たり前に喉渇いたからスポーツドリンク買って飲むじゃない?それで考えてみるとこれ以上においしい飲み物って飲んだこと無いなぁって気付いたのよ。ワイン寝かせてどうのとか、確かにおいしいのかもしれないけど、熱中症ぎりぎりの時のスポーツドリンクには勝てないと思うのよ。当然、熱中症ギリギリならなんでもおいしいかと言えばそうでもないだろうし。その時に熟成させたワインとか逆にマズいかもねー」
歩「ワインというかお酒を走った後には飲みたくないですね。走ってないですけど、なんとなくそう思います」
信子「まあそんなわけでこのところクソ暑かったから、究極のドリンクのスポーツドリンクをこの夏味わってたんだけど、ここに来て涼しくなったじゃない?」
歩「涼しくなりましたね」
信子「そしたらさ、涼しいお陰でどんどん距離を走れるのよ。あたしも体力とヘモグロビンが鍛えられたのねぇ、と思って快走してたのよ。でも涼しくて気持ちいいためか喉が渇かないのよ。若干水分欲しいとは思うけど」
歩「そんなもんなんですか」
信子「そんなものなのよ。でも結構距離走ったから、ちょっとクールダウンしようとウォーキングに切り替えたんだけど、あまり喉渇いてないし、体が熱かったのもすぐに冷えちゃったのよ。まあ、気持ちいいんだけど、何か違うなぁと思いながら、楽しみにしてたスポーツドリンクを自販機で買って飲んだの。するとビックリ!あまりおいしくないのよ。しかも暑い時は足りないくらいに感じた500が多すぎるくらいに感じたし」
歩「へえ!究極の飲み物だったのがそんなに変わるもんですか」
信子「変わるもんなのねぇ。だから、涼しくなったことによって究極のドリンクを楽しめなくなったのが残念と言えば残念なの。まああの殺人的な暑さは迷惑だったけどね」
歩「究極味わうにはお金よりも条件の方が厳しいんですね」
信子「そうよ。人生において究極の快楽を味わいたければ、お金じゃないわ。その条件とその食事を発見する事よ。それと五臓六腑に染み渡るスポーツドリンクを味わえなかっただけじゃなくて、もう一つ残念な事があるのよ」
歩「なんですか、それは?」
信子「涼しくて長距離走ったせいでちょっと膝が痛いの。調子に乗りすぎたわ」
歩「だから今日は歩き方がおかしかったんですね」
信子「もっと鍛えないとダメねぇ。歩ちゃんも一緒に走る?」
歩「…あー、私は遠慮しておきます」
信子「柔軟性も欲しいなぁ。ってあたしはどこに向かってるんだろう」
歩「東京マラソンとか出ちゃいそうですね」
信子「さすがに、それは、ないと…思う、思いたいわ…」

黒崎銀二

Twitter:Ginji_k
この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
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2007年8月31日開設
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