2ntブログ

若いアーティストの風景

朝刊
10 /31 2011
信子「最近こうやってショッピングモールで若手のアーティストがミニライブやってるよねぇ」
歩「やってますね。地元の人とかデビューしたての人とか。結構観ちゃいます」
信子「みんな歌がうまいよね。カラオケの普及が進んだお陰で歌唱力の技術は飛躍的に進歩した気がする。漫画好きはみんな漫画が描けるように最近の若い子は技術はみんな底上げしてる」
歩「そうですよね。最近はカラオケとか安いですしね」
信子「あたしの若い頃はゲーセンにあったカラオケボックスは一曲百円入れて歌う奴だったよ。今考えるとバカ高いね」
歩「今カラオケって平日昼間だとメチャクチャ安かったりしますからね」
信子「そんなわけで若い子が歌がうまいのは認めるものの、肝心なのは歌ってる歌が心に入ってこないって言う点なのよ。歌詞が漠然と好きだという気持ちや振られた時の気持ちを歌詞にしてるんだけど、全然掘り下げてないのよねぇ。自分の状況とかこんなバカな事をしたとか、歌詞の主人公を想像しづらいまま歌が終わりかけて最後に『あなたが好き』みたいな。最後まで聴いてるとぽかーんとなっちゃう」
信子「歌詞が書いて恥ずかしいところまで書いてないのよ。モテキでネタに扱われてる大江千里の格好悪いふられ方の歌詞にある『○○の○が○○たくて、○○つくままに○○した』ってフレーズが実体験から生まれたフレーズだし、聴いていたああ、わかるわかる。あるあるって思う。そういったフレーズから人は歌ってる人の歌詞が描く物語を期待しちゃうわけよ。この格好悪いふられ方はそれ以降の歌詞もあるあるって思わせるフレーズがあるわけ。実体験を歌詞にするってのはこういったあるあるを書くことで、最近の若い子の歌詞にはそういうのがないのよねぇ」
歩「確かにミニライブで初めて聴く曲に物語を浮かべる事って無いですね」
信子「永井真理子のZUTTOの出だしなんか『○○けた○○そのままでいたい○』よ。もう主人公の心理が伝わってくるし、いきなりがつんと来る。徳永英明のレイニーブルーなんて『○○も○○ない午前○○、○○ボックスの○は○、○○なれた○○○○回しかけて、ふと○を○○る』もうトレンディドラマが思い浮かぶ出だしよ。こういうドラマが歌詞に欲しいのに、最近の若い子の歌詞にはそれがまるで見えないのよねぇ」
歩「ブルーハーツなんか歌詞が物語というよりも、哲学的な現代詩みたいですね」
信子「そうよ!ブルーハーツのリンダリンダなんか『○○○○○みたいに○○○なりたい、○○には○○ない○○○があるから』なんて出だし聴いた時には衝撃を受けたよ。あれはすごかったねぇ」
歩「そう言われて見ると、最近の曲で記憶に残るような歌詞には出会ってないですね。その点AKBの曲は秋元康さんが作ってるから歌詞はしっかりしてる分、他の歌詞の弱い若いアーティストより強いのかも知れないですね」
信子「うん。とりあえず最近のアーティストの目標はAKBの歌詞を越えることだろうね。AKB商法なんて揶揄されてたりするけど、一応AKBの曲は商品として出来上がってるとは思うしね。まあ、あたしは買わないけど」
歩「正直AKBのCD売れてても買った人って周りで誰もいないから不思議。最近都市伝説なんじゃないかと思ってますよ」
信子「本当にいないよねぇ、AKBのCD買ってる人。まあそんなわけで今の若いアーティストにはストーリーテリング能力の欠如というか訓練が足りないのよ。カラオケ通ってもこればっかりは上達しないからねぇ」
歩「人間って難しいですね。歌手になりたければ歌がうまければいいって思うから、カラオケで歌の練習するけど、肝心の歌手として売れるためには歌詞と曲を作らなければならない。これはどんなにカラオケ通ってもうまくならないわけで。どうしたらいいんでしょう?」
信子「まあ、とりあえず小説と文学読めとしか言いようが無いわねぇ。歌詞と文学と言えば日本のフォークソングの物語っぷりはものすごいものがあって、特にさだまさしさんの歌詞なんてもう純文学の域なのよねぇ。風に立つライオンなんて歌詞で涙が溢れてくるほどだもん。あれくらいのものを書いてくれたら、CD不況だと言われててもあたしは買うわよ」
歩「そんなにすごいんですか。さだまさしさんって。紅白でしか観たこと無いんですけど」
信子「マジで?それは日本人として生まれてきたことの利点を活かしてないなぁ。じゃあ今度群馬に来た時にチケット取って二人でコンサートに行こうか。あたしも久しぶりに行きたくなっちゃったし」
歩「はい。私コンサートとかライブとか行ったこと無いから楽しみです」
信子「うそ、そんな子いるんだ。あたしなんか若い頃ライブばっかりだったわよ…。あたしが特殊なのか…?」

黒崎銀二

Twitter:Ginji_k
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2007年8月31日開設
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